アニメーション監督への道

第二章・佐山・・・まぁそんな女ももいましたっけねぇ(2009/3/28)



今回はご質問頂いた『演出になるためにどんなことをしてきたか』という事に答えるため、私が監督になるまでの経緯をまとめてみました。
でも、案外参考にならないかも?書いてったら意外と自分が風変わりな事に気づかされたので・・・





●佐山の歩み(年齢を計算されるのを避けるため(笑)、細かい年号などの記載は控えさせて頂きます)

佐山(lv.1)映像系専門学校から某アニメ制作会社に入社

序章でお話ししたとおり、私は就職活動を自分でしていなかったので、見るに見かねた現役美術会社の社長でもあった講師に連れられ、面接へ。
就職先が見つからなければ美術として雇ってくれるつもりだったよう・・・何と言う太っ腹!本当にお世話になりました。
当時は女性の演出も制作も数えるほどしかおらず、まず私の希望職種である演出としてゆくゆくは使ってくれそうな会社を紹介してもらうことに。
ちなみに今はどこの会社も女性の演出に当時程偏見などはありませんし、だいたい一社に一人はいるんじゃないでしょうか。だからそんなに構える必要はないかと思います。
しんどいのは業界に入った後・・・生存競争がもっとも過酷ですので、覚悟はその時のためにとっておきましょう。
面接のとき私のスキルを示すために何をどうすればいいのかわからなかったので、当時描いた短編用(5分くらい)の絵コンテと、まったく必要ありませんがデッサンも持って行きました。
これは同行した講師からの指示で、もし演出として雇われそうになかったら、とにかく作画でもなんでもかじりつけと。
でも演出になるための訓練を今までずっとやってきて、作画のスキルなんてあるわけなかろうもん。むしろこっちの方が無理じゃないの・・・?とか思いつつも持って行った次第です。
(そのとき持って行った素材が見つかったら、一部アップロードしてここにはっつけます。まだ探してないの、ごめんね。)
持って行った絵コンテが功を奏したのか、いずれは演出に・・・という条件でめでたく初めに面接した会社に制作進行として入社させてもらいました。
女の子でダイジョウブなの・・・?という不安を周囲に与えつつ・・・。

佐山(lv.2)制作進行生活

私が業界入りした当初はアニメーションはまだ『セル』と呼ばれるアセテートフィルムに画像を転写して色をつけ、それを紙に描いた『背景』の上に重ねて、台に固定されたフィルムカメラによって一コマ一コマ撮影されていました。
現在、作画と背景はまだ紙での作業が多いですが、色付け、撮影などは完全にデジタルに移行してパソコンでの作業にとってかわられました。
そのため当時と比べると、制作進行の力仕事が格段に減ったと思われます。
前項で『女の子でダイジョウブなの・・・?』と言われた所以はここにあって、撮影に素材を入れる段階では動画とセルは必ずセットに重ねてあって(そうしておかないとセル同士がくっついて塗ってある色が剥げてしまうのと、リテイクが出た時にすぐに対応できないから)、これが100カット分も集まると大体60キロくらいになるわけです。
1話数300カットとすると180キロですね。それを進行は撮影所まで運ばなくてはいけない。何度も何度も。
時にはエレベーターがないのに4Fに撮影現場がある会社とかもあり、しかも路駐しているので階段を走って運ばねばならない状況もありました。
男だ女だと言ってる場合ではありません。自分の担当話数は自分で素材の移動をするのが決まりです。一つの話数に何人もかかるほど人員に余裕なんてありません。
ただ私は筋トレ趣味のマッチョ女でしたので、当時握力も50キロくらいありましたし、あまり苦ではありませんでした。
その飄々とした感じが不安を払拭してくれたのか、割と早い段階で演出助手をやらせてもらえることに。
この進行時代に色々スキルを身につけました。ハンドトレス(セルに動画を機械ではなく手書きで転写する技術。当時の雑誌版権などには欠かせない技でした)も、ペイント(セルに耐水性の絵の具で色をつける作業。下地が透けて見えないくらいの可能な限りの薄さで塗らないと、重ねたときセル同士に隙間ができ、その影がフィルムに映ってしまう)も、動画も一通りやっています。
動画は進行の仕事の合間にやっていたので一日20枚くらいでしたかね。
ただ、別に進行は動画やらなくてもいいんですよ、私の場合は食べられないからやっていただけで。まぁこれが演助の際役に立ったりもしたんですが。

佐山(lv.3)演出助手

仕事っぷりが認められてか否かは定かではありませんが、演出助手にジョブチェンジ・・・とはいえ、進行の仕事に演助の仕事が加算されただけなのですが(^^;)
ちなみにここで演出技法に関する事を手取り足取り教えてもらえると思ったら大間違い。みんな自分の仕事がありますから、よほどベテランで心に余裕のある人でない限りそれは望めません。
きちんと育成システム引いてるところもあるとは思うんですが、私はご紹介できないので他の方とか各会社のホームページなどから情報を収集してください。
どうするかといったらこっそり盗み見るんです。演出さんが帰ったその後に。
私が初めにあたった演出さんは演出になって2年くらいの方だったので、『ここはこうしよう』とかお互い意見をぶつける事を許してくれました。
これはこれで恵まれた環境だったのかもしれません。
さて、演出助手という仕事。これをなめてもらっては困ります。演出助手が経る行程は演出のそれとまったく一緒。演出が見た後(場合によっては見る前)に同じ物を同じだけチェックします。問題が発生したら訂正するのは助手の仕事です。
なおかつ第一章で書いている『設定制作』的な仕事も含まれているのでぶっちゃけ演出より仕事が多いです。
だからといって演出さんを妬んではいけない。演出さんはその分『責任を負っている』のですから。
責任を負ってくれる演出さんの胸を借りて、スキルアップに励むのが演出助手の期間です。有り難く使わせて頂きましょう。
あ、そうそう、前項で、動画経験が役に立ったというのは、例えば動画リテイクが出た時に、本来なら動画に再発注して上がった物をペイントして・・・という行程を踏むのですが、突然だと動画さんを確保できないスケジュールの時もあったりするわけですよ。
でも今直さないと間に合わない・・・ええいもう自分で描きます。そして塗ります
・・・という状況が何度かあったんですね。ほんとはあっちゃいけないんだけど。
そんなこんなでやってたら、『仕事が早い』という評価にいつの間にかなってたんですね〜運のいいことに。
それがやる気があるととってもらえたのか、演出の仕事をもらえるように。
与えられる仕事を口を開けて待ってるより、自分ができることは率先して自分でやって、成果を周囲に見てもらえるようにするのがステップアップのコツだと思います。
演出の技能はアニメーターより計りづらいですから。

佐山(lv.4)演出

一般的には、演出(後処理演出)をしばらくやってから絵コンテを切らせてもらうというのが普通なようです。とくに制作から演出になった場合は。
作画から演出になる人は逆に後処理演出より先に絵コンテを経験する人が多いみたいですね。
これはそこまでに積んでいるスキルの違いによるものだと思います。
制作は頭からお尻まで制作行程を見ているため、各所に対しての指示の出し方や流れを大まかに把握できているので、後処理の時にまごつくことが少ない。でも絵に関してはからっきしなので、コンテを描くのには非常に時間がかかります。
逆に作画の人は多くの絵コンテを目にしているし元々の画力があるので、絵コンテ作業にはすんなり入れるけれども、今まで関わりを持たなかったパートとの打ち合わせ(美術、色指定、撮影など)に手間取ったりするからだと思います。
私はほぼ同時にどっちもやりました。一本だけ人様のコンテを頂戴して後処理をして、それ以後はコンテ演出という形で。これも非常に運のいい話です。
流れとしては、突然『コンテ描けるでしょ』ってシナリオ渡されたようなそんな記憶があります。古い記憶なので定かではないですが、多分入社の際に絵コンテを持ってきたのが大きく作用していると思います。
なのでこれから演出を目指して業界に入ってくる方に声を大にして申し上げます。

『面接には絵コンテを持って行きたまえ』。

短尺でいいんです。一本のまとまりがわかるものであれば。そうですね、メジャーな短編小説などをシナリオがわりに切ってみてはいかがかと。
絵コンテ用紙はダウンロードサービスをしているサイトさんとかもありますので、調べてみて下さい。
あと、演出になる前(制作や動画、演出助手のとき)、時間の合間をぬって作業の終了したシナリオをもらって絵コンテを描いてみる。そして身近な監督さんにぐいぐい持って行く強引アピールも有効です。
私のような制作出身の演出さんの多くは『コンテは敷居が高い』とおっしゃいます。
私は個人的には逆で、どちらが難しいかと言われると、後処理の方が難しいと当時思っていました。
というのは、こう動かしたいと思っていてもどうすればそうなるのか原画さんに的確に指示できる土台がまったくなかったからです。
本当に試行錯誤して我武者らにやっていましたね。ああでも、別にコンテが簡単だと言ってる訳ではないですよ。どっちか比べたらより演出の方が難しいと言ってるので誤解のないように。
初めのうちは前述の通り、演出技法を教えて下さる方は身近にいなかったのですが、ある監督とのお仕事で覿面に変化します。
それは芝山努さん。ベテランの監督さんでアニメーターとしてもエキスパートです。
私のバイブルとも言える『ど根性ガエル』のメインアニメーターであり、『ガンバの冒険』のレイアウトなど私の琴線に触れまくりな作品を手がけた方です。
とくにガンバ、最高です。ご覧になった事ない方は是非見て下さい。あまりのかっこよさに涙が出ますから。
この方とのお仕事が今の私を形成していると言っても過言ではありません。
芝山さんに言われた一言で一番私の人生を大きく揺るがせたのは、芝山さんが私のコンテチェック後

『このアクションはどのくらいのスピードなの?』
え?・・・固まりました、私。即答できなかったです。っていうかなんて説明していいかわからなかった。
『何コマ打ちで中何枚?わからなきゃだめだよ、どのくらいの枚数かかるのか。俺は全部わかるよ』
ものすごいショックでした。確かにそうです。わからなきゃダメです。アニメーターでないからって作画の事に無頓着でいいわけないんです。
私(演出)は人様のお金を預かってそれで作品を作っているわけですから、その枠の中でいかにクライアントの要求する物を作るのか・・・それが一番重要なことです。
絵の美しさには加担できないまでも、効果的な動かし方、効果的なカット積みで視聴者を飽きさせないようにすることこそ私の役回りなのに、漠然とアクションをつけていることを見透かされてしまった・・・。
ここから猛然と作画の勉強をするようになります。美大のデッサンの授業に紛れ込んだり待ち時間にクロッキーやったりしたのもこの頃です。建築パースの本を読みあさったりもしました。
とにかく作画さんの労力を無駄にする事なく、効果的に見せる動かし方・・・費用対効果ということです。かかる枚数に対して絵が効果的に動いて見えないと、その労力は無駄になってしまう。そうならないための原画の作り方を模索して、それを『こうしないとこうなっちゃうからダメ』と作画さんに指示が的確に出せるように努めるようになりました。
簡単に言えば凡例をすぐに引き出せるように、データを蓄積したということです。ゲーム的に言えば経験値を増やしたということですね。
現在もその勉強は継続中ですが、当時に比べれば少しはスキルアップしたんじゃないかしら?そうであって欲しいなぁ。じゃないと芝山さんに申し訳がたちません。
本当に、芝山さんがいなければ私はこの業界で生き残る事はできなかったと思います。

佐山(lv5)監督

演出を始めて4年くらいでしょうか。それは突然訪れます。
当時私もメインで参加していた帯番組の2期目継続が決まったのですが、1期目の監督ができなくなってしまった・・・気持ちは分かります。
ブログの方には書いてあるのですが、この作品の監督の拘束時間は半端ないものなので、(私も実際その立場になるまでは気づかなかったんですが)体力的な限界でもあったのでしょう。
で、そのとき1期シリーズのおよそ三分の一コンテを切っていた私がピンチヒッターとなりました。
初めは絶対無理とお断りしていたんですが、今やらないと二度と監督の話なんかこないかもしれないし・・・と、不安ながらも務めさせて頂く事に。
もういっぱいいっぱいな感じではありましたが、終わってみると本当にいい勉強をさせてもらったなぁ、と。
監督を目指す方々にここで申し上げられるのは、

『とりあえずは四方八方に目移りせず、一所に腰を据えて一つの作品に心血注ぐ時期をつくりたまえ』。

1本2本のコンテでは、よほどのインパクトがない限りクライアントに強く印象を残せません。キャリアがないうちはなおさらです。
ある程度スキルが身に付いてくれば1本でも印象的なコンテを描く事も可能かもしれませんが、初めからそんなことができるのは余程の天才で、ほんの一握り・・・いえ数人もいないでしょう。
監督になるためにはプロデューサーに自分の存在を意識してもらうことがまず必要なんです。
私の場合は天才肌ではないので、こつこつこつこつ・・・確実に、人一倍仕事をすることで自分のポジションを確保しました。この時の年間コンテ本数は40本くらいだったと思います。
月最低3本のコンテなので、大体7〜10日に1本、間断なく切り続ける・・・若いからできたような気がします。今はもうできません。だからそんな発注は受け付けません(笑)。
この仕事を最後に私はフリー演出になって、大体年間4〜6社くらいの会社と作品契約をして、時折監督業もさせてもらっています。フリーの演出としてはまぁ一般的な感じではないかと。

人間十人十色、得意な分野もそれぞれ違います。まずは自分を遠い目で見て自分の特技を見いだし、それを人によりよく見せるための方法を模索して、そこに向かう努力は惜しまず頑張って下さい。


・・・とまとめたら案外分量多かった。予告していた演出の仕事のディテールまで書けなかったよ、すんません。
演出の仕事のディテール、私なりのコンテの切り方も含めて次は図解入りでお話しようと思います。こんどこそ。
では第三章にて。


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