アニメーション監督への道

第三章・だから結局演出って何なんだよ〜演出編〜(2009/5/01)



さて、予告通り〜演出編〜をやっとまとめることができました。
でもやっぱりムービーをのっけるシステムを作るのがめんどく・・・難しかったのと、だいたいそのムービー誰が撮んねん!ってな感じで、へたくそな図解になってしまって申し訳ありません。雰囲気だけ掴んでいただければこれ幸いです。
第一章と若干かぶるところもありますが、もう少し噛み砕いて、注意点も含めてご説明致します。







●これらが演出のお仕事

※その1・演打ち(演出打ち合わせ)

絵コンテが上がったら(自分できったもの、人様がきったものいずれにしても監督、クライアントのチェックが通ったものでなければ、それはコンテ上がりとは言えません)、コンテを読み込み監督と打ち合わせします。
この時、この作品の傾向(どのような部分に重点を置いているか)、フォーマット(最終的な仕上がりの尺)、規制(やってはいけないこと)、前後の話数との合わせなどの確認をします。
もし監督の口から上の項目が出てこなかったら、最低限これだけは確認しておきましょう。

※その2・作打ち(作画打ち合わせ)

監督との打ち合わせが終わったら、その内容をふまえて原画マンと打ち合わせをします。
昨今の30分枠テレビシリーズ(正味本編21分弱)だとカット数が260〜310カットくらいなので、原画マンの人数は6〜20人くらい。作品の内容によって様々です。
打ち合わせ自体も1日にまとめる場合もありますし、日をわけて1日3人くらいずつ行うこともあります。これは会社や、原画さんの都合により変動するものです。
打ち合わせにかかる時間は、原画さんが作品のレギュラーで慣れてくればどんどん短くなりますが、初めての場合は作品の世界観や、注意事項まで全て説明する必要があるので、30カットで1時間くらいでしょうか。
この数字だと1話数1日で作打ちするのは難しい感じですね。

作打ち


打ち合わせで説明しなくてはならないこと・・・『コンテに描かれてなくて補足が必要な事』、『コンテにはこう描かれているけど実際には変更しなくてはいけない事』、『演出としてのこだわりとして自分がやりたい事』などがあげられます。
初めの2項目については必須条件です。その時説明できる事は可能な限り説明します。例としてあげると『シーンの時間帯』『その場所の光源(種類、向き)』『画面の色味やコントラスト』『アクションの速度や度合い(激しい・優雅になど)』『役者のセリフのスピード(この時点で役者が決定している場合)』『カメラワークの詳細』『キャラクターの感情』『小道具の意味』などです。
これらを細かく補足することによって原画さんのイマジネーションに訴え、新しいアイディアを引き出す事ができます。
自分が絵を描けなくても演出として得たい画面を細かに説明すれば、絵作りのプロとして原画さんも効果的な画面作りを考えて提案してくれますので、この機会に是非ディスカッションしましょう。
注意しなくてはいけないのは最後の1項目について。これは監督と要相談になります。
なぜなら作品の最終的な責任者は監督になるからです。
監督はその都度クライアントや原作者を説得し、了承を得て作品を作っています。そのため、クライアントや原作サイドの可否条件については一番熟知している存在です。
演出打ち合わせの段階ではおよそその可否条件を満たした内容で打ち合わせをしているので、それ以降何か変えようと思ったら新たにクライアントや原作者の説得にあたらなければなりません。
それは各話演出の立場ではできないので監督に委任するわけですから、その責任を負ってくれる監督に可否を事前に問うのはあたりまえのことです。
これを怠り、勝手なフィルム作りをして結局リテイクをすることになると、自分だけでなくその担当の原画さんや作画監督さんにも迷惑がかかり、人間関係にも響きます。
もしどうしてもやりたいことなら、とにかく監督を説得するか、自分が監督の時に存分にやりましょう。
また、打ち合わせの時に言っても、原画作業中の期間に気が変わる事は誰でもあることだと思います。
その場合は、打ち合わせの通りにラフを作って下さった原画さんの労をねぎらい、その上で変更のお伺いをまずたてましょう。ただ『こうしてください』と一方的に押し付けるのは暴力的です。
レイアウトやラフを作るためにはそれ相応の時間と労力がかかっていることを忘れてはいけません。

※その3・レイアウト(しばしば『l/o』と表記される)チェック

打ち合わせが済み、原画さんが作業に入ると『レイアウト』と『ラフ原画』があがってきます。この総称を『レイアウトラフ』

原図


この、背景作業に必要な美術さんに渡される部分を『原図』、そして下のキャラのアクション部分の大まかな動きを描いた部分が『ラフ原』です。

ラフ原


ここで見なくてはいけないものはまず『ロケーション』
舞台がこちらの想定しているところに合っているか、また設定に準じているかを確認します。
意外に忘れ易いのは『光源の指定』です。
レイアウト終了後、原図は美術さんと原画さんとに渡され、別々の場所でそれぞれの作業をすることになるので、明確に光源が必要な場合はこの時点できちんと表記しておかないとキャラの影方向と背景の影方向が合わなかったり、影の中にいるのにキャラクターに影が落ちていなかったりという不具合が生じます。
この不具合を後々訂正するのにはものすごい労力がかかりますので、そのような事態にならないよう事前に準備しておきましょう。
それから『アクション』。キャラクターがこちらの要求通りのアクションを正しくしているかどうかを確認します。
原画さんの作ったラフを仮にタイムをとってみて、想定の尺内におさまるかどうかもできればチェックしておきたいところです。
厳密にコンテ尺きっちりにおさめる必要はありません(むしろ収まらない事の方が多いので)が、後で自分で帳尻を合わせられる範囲にあるかどうかは知っておいた方がいいでしょう。
結果的にはオーバーした分も足りない分もどこかで帳尻を合わせなくてはいけませんし、それらは演出の仕事です。
ここで大幅にオーバーしているものを見過ごし、そのまま原画作業をしてもらった場合、結局帳尻合わせのためにせっかくあげてもらった原画を使わない・・・ということになると、その原画さんの労力が無駄になってしまいます。
そして『カメラワーク』。PAN(カメラを左右、または上下に振る)やT.U T.B(ズームのことです)などの場合は、素材自体がそれに見合うサイズで作られていないといけません。最も忘れ易いのは『follow速度』
followは動いているキャラクターやある物体をずっとフレーム内に捉えている撮影技法です。カメラが物体を追いかけて行くので主体となる物体ははフレーム内に留まっていますが、後ろの背景はずっと移動していることになります。
この移動がどのくらいの速度でどのくらいの時間行われるのかわからないと、必要な背景の長さがわからず背景作業ができません。
表記としては『K(コマ)/10ミリ(1+12)』のように表記します。この場合は『1コマ毎に10ミリの移動を1秒12コマ分します』という意味。
1秒12コマは36コマですから、10×36で360ミリ余分に背景が必要であることが背景さんに伝わります。
さらに引き方向を矢印で、またレイアウトに描かれている部分がスタート位置なのかエンド位置なのかも指定する必要があります。
フォロー速度は本来は作画さんが自分の想定しているアクションの速度に合わせて書き込むものですが、最近は書かない原画さんも多く、またアクションの速度と指定速度があっていないことも稀にありますので、きちんと自分で確認して不備があれば訂正しましょう。
『BOOK分け』が正しくされているか、『組み線』がとってあるかもチェックします。
アニメーションは基本『背景』の上に『セル』が乗るので、キャラが『背景物』の後ろを通る場合背景に被る部分のセルを切って抜く(これを組み線といいます)か、切り抜いた背景をセルの上に被せる(これをBOOKといいます)かをしなければなりません。
直線的なものやフォルムが単純なものの場合は組み線で対応できますが、自然物など複雑なフォルムの場合は組み線ではずれてしまうのでBOOK処理になります。
また、数カ所にわたって組み線が生じる場合もずれの原因になりますので、BOOKで対応した方がいいでしょう。
その可否を判断し、その都度修正します。BOOKやセルになる部分は背景さんにわかりやすいように原図上で色鉛筆で塗り分けします。一般的にはセルを暖色系、BOOKを寒色系にしますが、それが決まりではありません。
キャラクターのコスチュームや小物の不備もチェックします。ここで見落とし、作画監督もそれに気づかず修正を入れてしまうと、今度は作監の労力が無駄になってしまいます。

レイアウト修正


これはレイアウトにこちらの意図する修正をのせたものです。前の『原図』と比べて修正箇所を見つけてください。
これらは『修正用紙』という色付きの紙に描きます。
紙の色に関しては会社や作品によって変わるのでその都度確認します。色の種類が役職分揃っておらず、他のパートの人と被ってしまう場合は『演修』などと書いて、演出修正である事を明確にします。
レイアウトチェックは原画さんのペースにもよりますが、1作品で1日30カットくらいが普通でしょうか。なので、1作品のレイアウトチェックを終えるのにおよそ10日です。

※その4・各種打ち合わせ

作品の流れによって時期が様々なのでここにまとめてしまいますが、打ち合わせを各パートのチーフとします。

作監打ち合わせ・・・作画監督と打ち合わせをします。レイアウトが上がってくる前に原画さんに伝えたのと同じ事を作監にも伝えます。
作監の意見も作打ちに反映させたいので本来なら作打ち前にやりたい打ち合わせではありますが、なかなかうまくいかないのが現状です。
これはけっこう時間かかります。4〜5時間かかることも・・・。

美術打ち合わせ・・・背景の打ち合わせです。背景とセルの色味は切り離せないものなので大概の作品では色打ち合わせと同時にやります。
大体2時間くらいでしょうか。レイアウトがそこそこ揃った段階で行います。

撮影打ち合わせ・・・撮影の打ち合わせです。原画がそこそこあがって大体のビジョンが見えて来たら行います。これも2時間くらいでしょうか。

※その5・原画チェック

チェックが済んだレイアウトラフに作監が修正を入れ、それを元に原画マンがラフを清書します。これが『原画上がり』
『タイムシート』という撮影指示表に基づき、動きのタイミングをチェックします。

タイムシート


丸付き数字は原画のナンバー、間の点々は動画です。点が三つあれば間を三枚の動画で割るという意味。細かいマスが1コマです。
cameraの項目にはカメラワークの指示、memo欄にはこのカットでなされていることを分かり易く箇条書きにします。
演出の最も重要な作業はこの『タイムシート』をチェックし、不備があれば修正することです。
このシートは動画、仕上げにも必要な伝達書なので、わかりやすくきちんと書きましょう。誰が読んでもわかるように書く事が理想です。
書き方にはある程度約束事があったりしますので、身近な人に聞いてみて下さい。漠然と全てを説明する訳にはいかないので、ここではすみませんが割愛させて頂きます。
原画チェックも作品の流れや原画さんのペースによりますが、1作品1日30カット前後でしょうか。
今まで『1作品』というワードを使っていますが、演出作業というのは大体何作品か・・・または1作品でも何話数が被っている事が多く、『この作品が終わったから次』といったように一つ一つ片付いて行けるものでもありません。
なので私も一番多かったときで1日に140カット原画をチェックしていた時期がありました。この時はさすがに睡眠時間が1日2時間だったような・・・。
掛け持ちトータルで1日50カットくらいのペース配分が体にもオサイフにも優しい数字だと個人的には思います。

※その6・修正コンテを作る

アフレコ台本を作るために印刷屋さんにコンテを渡すのですが、コンテには現場作業に必要なあらゆる情報が盛り込まれています。しかしこれにはアフレコには不要な情報も含まれています。
そのままの状態で渡してしまうと非常に散漫な台本になってしまって、役者さんが見づらいです。
またこの時点で、コンテから変更になったセリフなどもあったりします。
それらひっくるめて、アフレコ台本として成立するようにコンテに修正を加える作業をします。

修正コンテ


いらないものは消す。わかりにくいものは補足する・・・といった作業です。1時間もあればできます。

※その7・背景チェック

上がって来た背景が、こちらの想定通りになっているかのチェックをします。
昔と今とでは随分様子も変わってきました。昔は物も大きいので扱いが大変で(ちょっとしたことで折れたり破れたり表面に傷がついたりするので)時間もかかったのですが、最近はほとんどがデジタルで処理できるので、大分楽です。

背景チェック


背景さんのペースによりますが、大体1日60枚くらいでチェックアップに4日間くらいです。

※その8・カッティング

上がって来た画像をつないだ物を心地いいタイミングに切りつつ、フォーマットに合わせる作業です。監督主導でやる場合と演出主導でやる場合、または編集さんがはさみを入れた物を確認して調整する場合など、現場によって様々です。
私が監督の場合は基本後ろで見ていて気になる所だけ少し意見をしたり、演出さんや編集さんが切りどころに困った時に提案する感じにしています。
編集さんがはさみを入れた物を微調整するやり方はベテランの編集さんに多いです。
時間的には作品の内容や編集さんにもよりますが大体3〜4時間くらいでしょうか。

カッティング


編集作業が終わると、尺調整のためカットやセリフが削られたり、セリフの内容が変わったりと変更が出ます。
そうした変更部分を修正した『アフレコ修正台本』を作ります。上記の内容をを印刷された台本にメモしたものです。
これが音響監督のもとにいって、役者さんに伝えられます。

※その9・アフレコ

フォーマットに調整されたフィルムを元に、声を収録する作業です。基本的には音響監督主導で行われます。
演出の役割としては、芝居の内容が想定している内容に合致しているか、間違った事を言ってないかなどを確認し、問題があれば指摘します。
これも作品の内容によりますが大体4時間くらいです。

アフレコ


※その10・リテイク出し

本来はカッティング、またはアフレコの前に『オールラッシュ』というものが存在します。上がったフィルム(当然音なし)をチェックして問題点を修正するための行程ですが、最近は時間短縮のためか割愛され気味です。
この段階でのリテイク出しは、『音戻し』といってアフレコで収録されたセリフをフィルムに合わせて調整したものがフィルムにのせられている素材で行うので、セリフずれも同時に直せます。
色間違い、撮影ミス、作画崩れ、音ずれ・・・すべてにおいてチェックし、問題箇所は修正します。
演出は修正方法を判断し、各パートに振り分けます。

リテイク出し


リテイク出しはこの後問題箇所が改善されるまで何度も繰り返されます。初めのリテイク出しは通しで何度も見るので大体2〜3時間、それ以後はバラで見るので1時間くらいでしょうか。

※その11・マーキング

ダビング前にやらなきゃいけない下準備です。
ダビング前には効果音をのせる作業があるので、キャラクターの細かい芝居がわからないといけません。
ここまでの段階で絵が完璧に仕上がっていれば問題ないのですが、作業が遅れていたりリテイクを差し替えることが出来なかった場合、現状のフィルムで正しいダビングはできません。
そこで、正しいポイントに効果さんがわかる印をつけることを『マーキング』といいます。
分量などにもよりますが、1〜2時間の作業です。編集さんに口頭で説明し、マークをつけてもらいます。そのマークの意味や音の質をメモにおこして、効果さんに渡します。

※その12・ダビング

セリフの加工やSE(効果音)、音楽などを合わせる作業です。基本は音響監督主導ですが、ここでも意図にあっているかのチェックが必要です。
また、多少の音ずれはここでも調整してもらえますが、どうしても合わせきれない場合、絵の方で直さなくてはならなくなります。
その場合は音の方のコマをだしてもらい、それに合わせてタイムシートを修正して再度撮影となります。

ダビング


ダビングにかかる時間は大体4時間。アナログ時代は『途中から切り替え』ということができず、途中でバランスをミスすると初めからやり直し・・・という感じでものすごく時間がかかっていたので本当にデジタル様々です。
ここまでくるとフィルムはほぼ完成です。演出のこの後の作業としては納品までの間にリテイクを直しきる・・・それだけです。


さて、大体演出の作業がお分かり頂けましたか?何か説明足りてないかもしれませんが、これ以上は言葉で説明しても無意味かとも思いますんで・・・やっぱり百聞は一見にしかずだと思います。
覚悟を決める手助けにこのレポートがなったのであれば幸いです。
次は最終章『監督の一週間』・・・時間の使い方を公開しようかと思います。
では最終章にて。


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